映画「オッペンハイマー」について、これから見る方のために役立つ情報を書いておきます。
「オッペンハイマー」を見る前に確認したいこと
「オッペンハイマー」とはどのような映画か
「オッペンハイマー」はクリストファー・ノーラン監督が、「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画です。原作は早川書房から「ロバート・オッペンハイマー」として文庫(上中下の3巻)でも出ています。
「オッペンハイマー」を楽しむための事前知識
「オッペンハイマー」の大きな流れ
米国が第二次世界大戦中に原子爆弾を開発する計画「マンハッタン計画」に科学者のリーダーとして任命されたのがロバート・オッペンハイマーです。この映画は量子力学が確立する20世紀の物理学黄金期において、オッペンハイマーが米国政府とは異なる思想を有しながらも、天才的な才能を発揮して計画を遂行する姿、そしてそこで生まれた歪みを描いています。
物理学・量子力学について|「オッペンハイマー」は物理学のアベンジャーズだ!
この映画は量子力学の知識がなくてもある程度楽しむことができます。原子力発電が一般化している現在、原子力に対する一般的なイメージで映画を楽しむことができるように作られています。
ただし、量子力学を知っていた方が10倍、いや100倍楽しめることに間違いありません。なぜなら「オッペンハイマー」には、ニールスボーア、アインシュタインをはじめ、この時代の物理学のスターが総出演します。量子力学に少しでも触れているなら、その顔ぶれを見るだけで興奮することでしょう。
量子力学についてゼロからでもイメージを掴みたいなら以下がおすすめです。
歴史的な事前知識 第二次世界大戦前後の米国の立ち位置について
映画内では、オッペンハイマーが共産主義思想を持っていたことがポイントとなっています。米国内の共産主義に対する見方は事前知識があった方が映画をスムーズに捉えられると思います(私は抜けていたため少し混乱しました)。大まかな流れは以下の通り。
① 第二次世界大戦前(1930年~):大恐慌もあり米国内で共産主義が一定の支持を集める
② 第二次世界大戦中:米国・ソビエト連邦は同じ連合国側。米国は共産主義に一部肯定的
③ 冷戦のはじまり:1947年に米国は反共産主義を公式政策として打ち出す
このように米国は第二次大戦後に反共産主義へと変容していきます。一方で第二次世界大戦中、米国にとって最大の敵国はヒトラーが率いるナチス・ドイツです。マンハッタン計画はナチス・ドイツが原子爆弾を開発していることに米国が対抗して開発を進めた計画ですが、原爆の開発よりも先にドイツの降伏を迎えたため、日本に対して使われる運命を辿ります。
クリストファーノーラン作品は難解? 3時間は耐えられるのか!?
クリストファーノーラン作品を見る前に気になるのが、映画の難解度合ですよね。「オッペンハイマー」は3時間ある作品ですので、前作「TENET テネット」のように難解であると途中で意味不明になり苦痛な3時間となりかねません。しかし本作は既にある歴史上の事実に沿っており、例え途中でわからなくなっても、大きな流れを失うことはないと思います。個人的に見た感想としても、(お尻が痛いという物理的な問題はあったが。。)映画が長いと感じることはありませんでした。
ノーラン作品の中では詩的な構成を含め、同じ物理学を題材にした作品「インターステラー」が近いとも言えます。
映画の見どころ
映画「オッペンハイマー」は事前の評判で天才の葛藤や映像美を見どころとされていますが、本映画を見るうえで個人的に推したい楽しむポイントを2つ紹介します
見所①:米国が持つ強さ・推進力
米国はマンハッタン計画のために、それまで原野であったニューメキシコ州のロスアラモスに研究所都市を作ってしまいます。米国が覇権を取るために莫大な投資を行いプロジェクトを進めていくその推進力は、現代にも通じる米国の強さの源泉を感じることができます。
見所②:物理学者が活躍した時代
第二次世界大戦前後のこの時代は物理学上の発見が軍事技術及び軍事作戦に直接的に結び付いた、物理学者にとって激動の時代です。この映画を物理学者版アベンジャーズと表現しましたが、登場する著名な物理学者は皆、何らかの政治的なスタンスを取らざるを得ない、そういう時代です。
脇役で登場する物理学者もスーパースター級のノーベル賞物理学者ばかりです。大変悲しくも、歴史上で物理学者が中心とした物理学的な進展をドラマとして描かれる映画でこれ以上の作品は生まれないのではないでしょうか(個人的な人間関係ならばいくらでも可能でしょうが)。
おわりに
ノーラン自身が言及しているように、この映画は見方によって様々な議論や批判が生まれていますが、エンターテインメントとして、そして歴史的な一つの視点としての両方で耐えうる作品は流石ノーランと言わざるを得ないです。皆さんも見てください。
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