映画「オッペンハイマー」:「ソーシャルネットワーク」との共通点

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映画「オッペンハイマー」と「ソーシャルネットワーク」の共通点について解説。

ストーリー・構成について

「オッペンハイマー」は「ソーシャルネットワーク」そっくり?

「オッペンハイマー」二つの裁判形式の質疑(オッペンハイマーは査問委員会、ストローズは上院の公聴会)をストーリーの主軸に据えている。この構成に既視感を覚える方は多いと思うが、デイビットフィンチャーの「ソーシャルネットワーク」の構成とまさに一緒だ。「ソーシャルネットワーク」では2つの裁判(Facebookのアイデアを盗んだと主張するウィンクルボス兄弟と親友エドゥアルド・サベリンから)の訴訟質疑をベースに回想シーンでストーリーが展開される。この現在と過去を行ったり来たりする構成は映画「市民ケーン」スタイルとも言え、ストーリーを不連続に構成でき、現在の解説を加えながらストーリーを語れ、スピード感も高める演出となる。

似ている部分がこの構成だけならまだしも「オッペンハイマー」と「ソーシャルネットワーク」の共通点を列挙してみると、①ノンフィクション、②天才的な主人公の成功③主人公の一部社会性の欠落、④裏切り⑤パラノイドな女性の登場(無理やり)、と複数の共通点があり、SNSでは「オッペンハイマー」はアーロンソーキン(「ソーシャルネットワーク」の脚本家)が脚本を書けばもっと良くなったという意見もちらほらある。

参考:The style of Oppenheimer feels similar to The Social Network.. : r/OppenheimerMovie (reddit.com)

ラストシーンを比較するならば、核爆弾を開発し、世界が核の連鎖に陥る未来を見るオッペンハイマーに対して、Facebookで成功したマークザッカーバーグが裁判を示談で済ませるよう弁護士に勧められ、疲れ果てながらも、フラれた女性にFacebookで友達申請をするという皮肉的な最後は対称的だ。

「オッペンハイマー」についてはオッペンハイマーとアインシュタインの会話をストローズ視点とオッペンハイマー視点両方で見て、観客が真実を確認する演出になるのはよくできている。ただ単純化してしまうならば、核開発を利用して自分の出世やプライドを実現させようとするストローズに対して、オッペンハイマーは核技術や世界の未来を憂いている構図で、核自体の連鎖は起きなかったが、開発競争としての連鎖は始まってしまったという結論は少し平和主義的すぎないかなあという気がする。ただ、題材が題材だけに最後に「BabyYoure a Rich Man」を流すような皮肉的な最後にはできなかっただろうし、難しい部分だ。

このような構成の議論でアーロンソーキン(「ソーシャルネットワーク」の脚本家)が「オッペンハイマー」を脚本した方がよかったという議論があるが、いや、アーロンソーキンは「オッペンハイマー」に出ている(アーネスト・ローレンス役のジョシュハートネットはアーロンソーキンとそっくりじゃないか)というポストを多数見かけて笑ってしまった。確かに似ている。

なぜフォン・ノイマンは登場しなかったのか

ジョン・フォン・ノイマン – Wikipedia

同時代の天才物理学者フォン・ノイマンがなぜこの映画に登場していないのか、ということもこのストーリー構成から考えておきたい。フォン・ノイマンは実際にマンハッタン計画に参画しており、爆縮レンズの設計で多大な貢献をし、オッペンハイマーの要請でロスアラモスに2週間滞在して大きな進展をもたらしたと言われているので、映画に登場しなかったのは演出上の意図的な削除としか言わざるを得ない(ファインマンのボンゴを叩く演出すら取り扱っているのだから)。
意図的に登場しなかった演出上の理由を考えるならばフォンノイマンがオッペンハイマーを超える天才的な存在であり、アグレッシブなスタンス(京都への原子爆弾投下、ソ連への先制攻撃を主張)を持っていたことが挙げられる。そのような人物をこの映画に登場させてしまった場合、天才オッペンハイマーとしての立ち位置がブレる上、原爆投下の議論も不要なもう1つの対立が生じてしまい、ストーリーラインがよりわかりにくくなってしまう。
「ソーシャルネットワーク」のショーン・パーカーのような演出(主人公の憧れの存在として嵐のように現れ、ドラスティックに成功に導く存在)で登場することもできなくはないが、それだと本当に「ソーシャルネットワーク」になってしまい今回の映画のテイストとは馴染まないだろう。

最後に

今回、「ソーシャルネットワーク」との共通点から「オッペンハイマー」を考察してみたが、どちらも虚実をうまく織り交ぜ、ノンフィクションとして見応えのある内容となっている点は間違いなく、構成上の共通点を意識しながら2つの映画を見るのは面白い。私ももう1度両方見てみようと思う。

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